第16回 「聖書入門ーキーワードで読む」
第十六回 神の子(son of God,ὀ υὶος του θεου,ホ ヒュイオス トゥー セウー)
「イエスは神の御子」
「神の御子」という表現は、新約聖書に45回使用され、主に福音書に登場します。
「神の子」は、イエスに対して使用される場合、イエスが神性をもっておられ、父なる神に対して子なる神であることを示しています。
イエスが「神の御子」であることの重要性は、イエスを単に人間としてしか見ない人が多いからです。イエスを人間としてしかとらえなければ、偉大な人格的な指導者や模範的人物としてのイエスを知ったとしても、人となられた神という事実、またイエス・キリストの十字架の贖いの意味を理解することができず、福音の真理が見失われてしまいます。聖書の中から、イエスが神の御子であることを示す表現を見てみましょう。
まずは、ペテロの信仰告白です。
“イエスは彼らに言われた。「あなたがたは、わたしをだれだと言いますか。シモン・ペテロが答えた。「あなたは生ける神の子(Υιος του Θεου)キリストです。」(マタイの福音書16:15-16)この答えにイエスは大変喜ばれました。
またマルコの福音書の冒頭には「神の子、イエス・キリストの福音のはじめ」(マルコの福音書1:1)と記されています。この場合、神の子はメシア、キリストの称号でもあります。
更に十字架につけられたイエスを目撃していた死刑執行人は「この方は本当に神の子であった。」(マルコ15:39)と告白しています。百人隊長はユダヤ人ではなくローマ人ですので、驚くべき告白です。ちなみに「神の子」の子は、英語でSon であって、Child ではありません。それは、イエスが子なる神であることを示しています。
ヨハネの福音書はその執筆の目的をイエスが神の子キリストであることを知ることにあると述べています。
「これらのことが書かれたのは、イエスが神の子キリストであることを、あなたがたが信じるためであり、また信じて、イエスの名によっていのちを得るためである。」(ヨハネの福音書20:31)
「旧約聖書における神の子の別の用法」
しかし、「神の子」という表現は、特に旧約聖書では、別の意味でも用いられています。例えば、「御使い」(創世記6:2)に対して用いられます。また選民イスラエルに対して、「イスラエルが幼いころ、わたしは彼を愛し、エジプトからわたしの子を呼び出した。」(ホセア書11:1)とあります。また聖書以外では、エジプト、バビロニア、ローマの皇帝が「神の子」と呼ばれていました。
「二種類の神の子の表現」
ここで大事なことは、イエスが神の子であり、100%神であるということと、信者が救われて神の子とされていることの違いです。例えばヨハネの福音書1章12節では、「しかし、この方を受け入れた人々、すなわち、その名を信じた人々には、神の子どもとなる特権をお与えになった。」とあります。この時の「神の子ども」は、ギリシャ語で、τέκνα Θεοῦ、英語で children of God で、ヒュイオスとは異なるギリシャ語が用いられています。ヒュイオスというギリシャ語やson という英語は、イエス・キリストに対して用いられ、τἐκνον(テクノン)や英語の child は、クリスチャンに対して用いられます。イエスが神の子であることと、信者が神の子とされたことは決定的に異なることを表現しており、前者が神であるのに対して、後者はあくまでも人間なのです。イエス・キリストを救い主として受け入れたクリスチャンは、「神の子」として「アバ、父よ」と叫んで、親しく神と交わることができます。これも神と私たちの間にあった罪という障壁をイエス自身が十字架で取り除いてくださったおかげです。イエスが神の御子であることと、信じたクリスチャンが神の子とされていることの間には、大きな違いがあることを覚えておきましょう。
「神の子の相続財産」
ある人は、人間はすべて例外なく神の子であると主張する方がおられます。しかし聖書はイエス・キリストを信じ、罪赦された者のみが子とされると言っています。子であることの特徴は相続財産を受け継ぐことができる権利が発生することです。神の子であることの証拠は、聖霊の証印を押されていることにあります。ローマ人の手紙八章には、「御霊ご自身が、私たちの霊とともに、私たちが神の子であることを証ししてくださいます」(ローマ8:116)とあり、またエペソ1章には、「このキリストにあって、あなたがたもまた、真理のことば、あなたがたの救いの福音を聞いてそれを信じたことにより、約束の聖霊によって証印をおされました。聖霊は私たちが御国を受け継ぐことの保証です。」(エペソ1:13~14)と記されてあります。
私は、自分の蔵書に古賀というはんこを押し、この本が私の所有物であることを示しますが、神は信じた者に聖霊を与えることによって、ないし聖霊の証印を押すことによって、神の子としてくださいました。そして神の子は、父なる神の相続財産を受け継ぐことができます。それは御国を受け継ぐことであり、天国へのパスポートが保証されるのです。そしてそれだけではなく、この地上に生かされている日々、父なる神と御子イエス・キリストとの親しい交わりに生きることができます。「私たちの交わりとは、御父、また御子イエス・キリストとの交わりです。」(1ヨハネの手紙1;3)