第14回 「聖書入門ーキーワードで読む」

第十四回 神の国(kingdom of God、βασιλεία τοû θεοû, バシレイア・トゥ-・セウー)

「新約聖書における神の国の記述」

新約聖書では、「神の国」はルカの福音書で32回、マルコの福音書で14回、マタイの福音書で4回、ヨハネの福音書で2回使用されています。マタイの福音書では、「神の国」にかわって「天の御国」(kingdom of heaven)という言葉が33回用いられています。国のギリシャ語はバシレイアです。

「神の国の定義」

聖書では重要な言葉として「神の国」(マタイの福音書では「天の御国」(kingdom of heaven)があります。この「神の国」の定義を知ることが、決定的に重要です。この言葉は、政治的な用語です。例えば一つの国を思い起こして下さい。ドイツの憲法学者イェリネックは、『一般国家学』という著作の中で、国家の三要素として、主権、国民、領土を挙げています。例えば日本の国家は、主権をもっており、領土、領空、領海を支配しており、そこには日本の国民が住んで居ます。「神の国」には、イエス・キリストという主権者がおられ、イエス・キリストを信じる人々によって構成され、目に見える、ないし目に見えない領域が存在します。大事なことは、イエス・キリストの主権が確立されているかどうかが大切なことです。『神の国』とは、神の支配と定義することができます。同時に「神の国」が、領域(マタイの福音書4:8)や国民(マルコの福音書3;24)の意味にも用いられています。

「目に見える神の国と目に見えない神の国」

マルコの福音書1章15節では、「時が満ち、神の国が近づいた。悔い改めて福音を信じなさい」と記されてあります。この「神の国」をユダヤ的なメシア思想の文脈で「千年王国=メシア王国」という目に見える王国と同一視する必要はありません。ユダヤ人にとって最も必要なことは、罪を悔い改め、イエス・キリストをメシア(救い主)として受け入れることでした。イエス・キリストを心の中に受け入れた時に、そこに「神の支配」、「神の国」が誕生します。それは目にみえない「神の国」です。たとえ罪が支配する滅びゆく世界の中にあっても、「神の国」は存在するのです。
パリサイ人たちが、神の国はいつ来るのかとイエスに尋ねた時に、イエスは、「神の国は、目に見える形で来るものではありません。『見よ、ここだ』とか、『あそこだ』とか言えるようなものではありません。見なさい。神の国はあなたがたのただ中にあるのです。」(ルカ17:20,21)と語られました。またイエスはユダヤの総督ピラトに対して、ご自身が王であることを認めつつも、「わたしの国はこの世のものではありません」(ヨハネ18:36)と語られました。現在においても、この目に見えない「神の国」はイエス・キリストを信じる人々の心に打ち立てられています。

「神の国ー主、キリストの支配」

聖書の中に、「あなたの口でイエスを主 (kύριος) と告白し、あなたの心で神はイエスを死者の中からよみがえらせたと信じるなら、あなたは救われるからです」(ローマ人への手紙10:9)と記されてあります。 すでに第八回「主」の所で書きましたが、初代教会においてクリスチャンは、イエスを主として従うべきか、皇帝を主として従うべきか、二者択一を迫られていました。イエスを主と告白することは、迫害を受け、場合によっては殉教の危険性がありました。イエスを「主」として従うことは、イエスを神として告白することであり、自分の主権をイエス・キリストに明け渡すことでもあり、そこに「神の国」が到来します。パウロは、人が救われる以前の状態と救われた後の状態について、「御父は、私たちを暗闇の力から救い出して、愛する御子の御支配(έξοσια,エクソシア、dominion)の中に移してくださいました。この御子にあって、私たちは贖い、すなわち罪の赦しを得ているのです。」(コロサイ書1;13,14)と書いています。すなわち救いとは、暗闇の力であるサタンの支配から解放されてキリストの支配、「神の国」に移されることなのです。
クリスチャンは二重国籍の持ち主です。日本人として日本の国籍を持っていますが、クリスチャンとしては天の国籍を持っている天国人です。パウロは、「私たちの国籍は天にあります。そこからイエス・キリストが救い主として来られるのを、私たちは待ち望んでいます。」(ピリピ人への手紙3;20)と語っています。

「目に見える神の国」

しかし、聖書は目に見える形で将来イエスが支配される「神の国」が地上に到来することを約束しています。それは、ユダヤ人たちが待ち望んでいたメシア王国(=千年王国)であり、彼らが自分たちの罪を民族的規模で悔い改め、イエスを救い主として受け入れ、イエスが再び来られる(再臨)ときに実現します。そしてその後に、世界が滅ぼされ、「新しい天と地」が到来し、そして永遠にキリストと父なる神の支配が続くのです。「神の国」は、イエスの地上再臨とともに完成します。
”この世の王国は、わたしたちの主と、そのキリストおものとなった。主は世々限りなく支配される。”(黙示録11:15)
ただ神の前に自分の罪を悔い改め、キリストを「救い主」、「主」として受け入れることなくして、自動的に「神の国」は到来しないことを覚えてください。「時が満ち、神の国が近づいた。悔い改めて、福音を信じなさい」とある通りです。

Follow me!