聖書メッセージ36

日本の没落―ノブレス ・オブリージの崩壊と聖書

―ノブレス・オブリージ(noblesse oblige)の崩壊―

ノブレス・オブリージ(noblesse oblige)の崩壊

今日の日本の危機の原因の一つにノブレス・オブリージの崩壊があります。ノブレス・オブリージとは、訳すれば「高貴なるものの義務」で、人々よって信頼され、期待されている職業であればあるほど、人々に対する義務や責任は大きいいということを意味します。それはもともとは貴族の倫理でしたが、今日では健全な職業倫理を意味しています。教師は、子供達を教育し、人材を育てるという高貴な仕事を担い、警察官や消防士は国民生活を犯罪や災害から守るという大切な任務を持ち、政治家や官僚は、国家の独立をまもり、国民が人間の尊厳を保ちながら、人間らしい生活をするように、国民に仕える存在です。決して権力や地位を振りかざして、他の人々を抑圧したり、尊厳を傷つけるものであってはならないはずです。

 日本における職業倫理の崩壊

しかし、最近の日本の状況を見ますと、このノブレス・オブリージが崩壊している現象をいやというほど知らされます。教師や警察官が、盗撮を繰り返したり、官僚が知られると都合の悪い行政文書を破棄したり、隠蔽したり、改竄したりしています。国民の知る権利の完全な侵害です。政治家にも、贈収賄、公職選挙法違反、秘書へのパワハラ、セクハラ事件、不倫など問題を起こす人があとをたちません。もちろん与えられた使命を忠実に遂行しようとする心ある人々も少なからず存在しますが、全般的に言って、こうした職業倫理の崩壊は、日本社会の道徳的基盤を確実に蝕んでいます。2020年9月25日の読売新聞の朝刊に、ショッキングな目を覆うようなニュースが一面で報じられていました。2015年から2019年までの5年間にわいせつ・セクハラ行為で懲戒処分を受けた公立小中高校などの教員が1030人に上り、このうち約半数の496人が自らの勤務する学校の児童生徒を対象としていたという驚くべき事実です。しか、これは氷山の一角で、発覚していない事例や、懲戒処分にまで至らなかったケースを含めれば何倍にも膨れ上がります。教育崩壊という由々しい状態が日本社会を蝕ばんでいることがわかります。朝のドラマの「エール」の「藤堂先生」のように、生徒に寄り添い、子供の将来を真剣に考える先生はいなくなったのでしょうか。新聞の記事には、セクハラ・わいせつ行為は、「学校での権力構造を背景としており、深刻だ」という専門家の意見が紹介されてありました。

 森島道夫「なぜ日本は没落するのか』(岩波現代文庫)

過去、このような状態を目撃し、警告を発していた優れた経済学者がいました。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の教授をしていた森嶋通夫氏(1923-2004)です。ノーベル経済学賞の候補にも何度も挙げられた国際的に著名な経済学者です。そして日本の行く末についても心を痛めつつ、日本再建についての提言をしています。彼は、1999年に刊行した『なぜ日本は没落するのか』において、このノブレス、オブリージの崩壊、つまり職業倫理の崩壊を警告していたのです。彼は、本書で、日本没落の原因として、少子高齢化、精神の荒廃、金融の荒廃、産業の荒廃、教育の荒廃をあげており、1980年代には「日本列島が犯罪者の天国になったといっても過言でないほどに、職業倫理は崩壊してしまった」と嘆いています。そして「日本では、底辺からよりも、むしろ頂天から崩れていく危険が大きい」(46頁)と診断しています。更に森嶋は、「日本では、性的なモラルが他国よりも桁外れに退廃している」と憂えて、その原因を、無宗教、つまり神を畏れないことにあると指摘しています。日本では物質主義的・功利主義的な教育が盛んで、何が得で損であるかに敏感で、利己的な利害や幸福を追求する人は多いが、「超越的なものに対する義務感や責任感」を持っている人は、見当たらないというのです。

 イエス ・キリストのことば

ノブレス・オブリージの考えは、聖書によって明確に示されています。イエス・キリストは、弟子たちに対して、次のように語られました。

「あなたがたの間で偉くなりたいと思う者は、皆に仕える者となりなさい。あなたがたの間で先頭に立ちたいと思う者は、皆のしもべになりなさい。人の子(イエス・キリスト)が来たのは、仕えられるためではなく仕えるために、また多くの人の贖いの代価として、自分のいのちを与えるのとおなじです。」(マタイの福音書20:26-28)

私たち日本人は、「偉い」(great) というと、地位が高かったり、優れた能力を持っていたり、すごい人という印象を持ちますが、聖書的価値観では、自分の利益を求めず、人々に心から仕える人です。この聖書の精神は、英語 の言葉にもはっきりと示されています。

仕えることと理解すること

公務員は英語でcivil servantと言いますが、意味は「公僕」、市民のしもべなのです。また英語ではminister は大臣や聖職者を意味しますが、本来の意味は仕えるということにあります。その意味において、prime minister(大臣 の中の第一人者)は、第一人者として国民に仕えるべき存在です。政治家や大臣、公務員、教員、医者、看護師といった人々が市民や子供達、患者に仕えるためには、自分たちが仕える人々がどのような状態にあるかを「理解」する必要があります。しかし「理解する」ことは、understand という言葉にあるように、へりくだって人々の下に立たなければ、その人の心の奥深くの悩みや不安、苦しみを自分のものとして感じることはできません。

 最も低くなれれた神の子イエス・キリスト

イエス・キリストは、「仕える」ことの大事さを語られだけではなく、自らそのことを実践されたお方です。

「キリストは、神の御姿であられるのに、神としてのありかたを捨てられないとは 考え
ず、御自分を空しくして、しもべの姿をとり、人間と同じようになられまし た。人とし
ての姿をもって現れ、ー自らを低くして、死にまで、それも十字架の 死にまで従われま
した」(ピリピ書2:6?8)

聖書の中に、「人がその友のために、命を捨てる、これより大いなる愛はない」(ヨハネ15:13)とありますが、神の子イエス・キリストがへりくだってこの地上に来られ、私たちの罪の全てを負って、身代わりとして十字架にかかって死んで下さったことの中に、私たちに対する神の愛があますところなく示されています。

 新しく生まれること (new born)

聖書は、自分の罪を神に告白をし、自分のために十字架のかかって死んで、三日目に墓を打ち破って復活されたイエス・キリストを救い主と信じる人は、罪赦されて、永遠の命を与えられ、新しく造られた者(new born) となると約束しています。
人間の罪がもたらす現実は、エゴイズム、権力支配、現実の隠蔽、虚栄と学歴信仰、死に対する恐怖です。しかし、キリストを信じる信仰によって、新しく作り変えられた人は、罪と死の法則から解放されて、神のいのちの法則に生きる者となるのです。

 最も大事なこと

日本の沈没ないし没落の原因として、よく言われているように、南海トラフのような大震災、そしてそれに伴う大津波や原発事故といった目に見える大災害、あるいは経済・金融危機などが考えられるでしょう。しかし、見えないだけにより深刻なのは、人々の道徳的・倫理的崩壊、職業倫理の崩壊、それに伴う「ノーブレス ・オーブリージ」の衰退ではないでしょうか。そしてそれは、人間の外側から来る災害ではなく、人間の内なる罪の結果なのです。
制度や法律を変えて、権力の腐敗や堕落を防止することは大事です。既得権益の壁を打ち砕く改革も急務です。職業倫理の再興のための教育改革も必要です。しかし、遠回りのように思いますが、それ以上に大事なことは、罪の性質によって支配されている人が、イエス ・キリストを信じて、新しく作り変えられる事です。罪の支配から解放されて、神の愛に生きることから、新しい変革が生まれてきます。それは、私たち一人一人から始まるのです。今日の時代こそ、イエス ・キリストが十字架で流された尊い血潮が 必要な時代はありません。

「御子イエス・キリストの血はすべての罪から私たちをきよめてくださいます。」
( 1ヨハネの手紙1:7)

大津 キリスト集会では、コロナ対策をした上で、聖書を通して、イエス・キリストについて学んでいます。是非、教会のドアを勇気を持ってノックしてください。訪問を心から歓迎いたします。