第24回 「聖書入門ーキーワードで読む」
第二十四回 時(time,καίρόσ,カイロス)
聖書では時を表すギリシャ語として καίρόσ,(カイロス)とχρόνυϛ(クロノス)があります。クロノスが、過去、現在、未来という機械的に継続して流れる時間を意味するのに対し、カイロスは好機、チャンス、特別な時、ないし神が定められた救いの時を意味します。カイロスは新約聖書で85回用いられています。カイロスの複数形はカイロイです。またクロノスが計量可能な物理的時間を意味するのに対し、カイロスは、クロノスの流れを断ち切る瞬間的で質的な時間を意味します。この他に、日、月、季節などを意味するώρα(ホーラー)があります。聖書の中で大事なのは、神の時、神の特別の計画の実現の時というカイロスの方です。それは救済史的な意味で、神の決定的な救いが行われる時を指します。例えばイエスは「時(カイロス)が満ち、神の国は近づいた」(マタイ1:15)と言われました。
更に、イエス・キリストの十字架の時がカイロスとして表現されています。例えばイエスは、「私の時(カイロス)はまだ来ていません」(ヨハネの福音書7:6) と語られました。逆にマタイ26:18では、「私の時(カイロス)は近づいた」とあります。更にパウロは、「実にキリストは、私たちがまだ弱かったころ、定められた時(カイロス)に不敬虔な者たちのために死んでくださいました。」(ローマ人の手紙5:6)と述べています。イエスの十字架と復活は、神が定められた救い、罪の赦しの実現の特別な時なのです。
またカイロスは、将来の終わりの日を指す場合にも用いられています。それは、神の定められた時だからです。「あなたがたは、信仰により、神の御力によって守られており、終わりの時(カイロス)に現わされるように用意されている救いをいただくのです。」(Ⅰペテロ1:5) ここではキリストの再臨の時が、カイロスとして表現されています。この意味での典型的な聖句としては、「キリストの現れを、定められた時(カイロス)にもたらしてくださる、祝福に満ちた唯一も主権者、王の王、主の主、—–この方に誉と永遠の支配がありますように。」(1テモテ6:15)があります。
またカイロスは、現在においても用いられています。現在は、救済史的に見れば、特別の定められた期間です。つまり、聖書では、キリストの初臨と再臨の期間は、「恵みの時」として表現されています。「恵みの時」というのは、「主の日」、つまり神の裁きの時が切迫しているからです。福音宣教は、「恵みの時」に行われる必要があります。「主の日」は、神の言葉を探しても見いだすことのできない「みことばの飢饉」の時だからです。(アモス書8:11)
「神は言われます。恵みの時(カイロス)に、わたしはあなたに答え、救いの日にあなたを助ける。見よ、今は恵みの時(カイロス)、今は救いの日です。」(Ⅱコリント6:2)
「機会(カイロス)を十分に活かしなさい。悪い時代だからです。」(エペソ5:16)
以上、私たちは、新約聖書におけるカイロスの重要な意味について考えてきました。神の救いの計画の実現の瞬間を意味するカイロスの重要性を知り、イエス・キリストの十字架の贖いという過去のカイロスに感謝し、イエス・キリストの再臨という将来のカイロスを待ち望むものとなりましょう。そして現在のカイロスである「恵の時」に福音を熱心に宣べ伝える者となりましょう。